労務費を削ると通報される時代に。改正建設業法が変える“価格交渉”の新常識

第1章:はじめに ― 労務費の基準が建設業界にもたらす変革

令和7年12月12日、建設業界にとって極めて重要な制度改正がついに本格施行されました。
それが、「労務費に関する基準」の導入と、それを支える改正建設業法の全面施行です。これは、建設業界が長年抱えてきた“慢性的な人手不足”“技能者の処遇改善の遅れ”といった課題に、国を挙げて真正面から取り組もうとする、いわば構造的転換の第一歩とも言える施策です。

国土交通省が新たに立ち上げた「労務費に関する基準ポータルサイト」には、こうした制度の狙いや根拠、具体的な労務費の基準値、さらには関連する契約・実務面での運用方針などが詳しく整理されています。
このサイトの公開は、単なる行政情報の提供にとどまらず、建設業全体の「賃金の見える化」「適正な原価意識の定着」への大きな一歩と評価できます。

■ なぜ「労務費の基準」が必要なのか

これまでの建設業界では、見積書や契約書において労務費の内訳が不明瞭なまま取引が行われるケースが多く、特に多重下請構造の中では技能者に届くべき賃金原資が、適切に確保されないまま目減りするという実態がありました。
技能者の処遇が後回しにされてきた背景には、元請と下請の力関係、発注者の価格重視姿勢、そして「労務費は削れるもの」といった旧来の慣行が根強く残っていたことが挙げられます。

その結果、若年層の入職率は低下し、60歳以上の技能者が25%以上を占めるという深刻な高齢化が進んでいます(※総務省「労働力調査 令和6年平均」より)。
こうした状況を打開し、建設業を“働く場所として魅力ある産業”へと再構築するには、「処遇改善」=「賃金の引上げ」が不可欠であることは、もはや業界全体の共通認識です。

■ 改正建設業法と連動した「担い手三法」の意義

今回の制度改革は、いわゆる「第三次・担い手三法」(建設業法、品確法、入契適正化法)の一体改正の中で位置づけられており、これら3つの法律が連携して、以下の3点を柱にしています。

  1. 働き方改革(週休2日や工期基準)
  2. 技能者の処遇改善(労務費の明示と確保)
  3. 持続可能な建設サービス供給体制の確立

特に処遇改善に関する部分では、建設業法第34条に新たな規定が加わり、中央建設業審議会が「労務費に関する基準」を作成し、広くその実施を勧告することが可能になりました。
これは、従来“民間取引の自由”とされてきた賃金に対して、行政が一定のガイドラインを示すという点で、非常に画期的です。

さらに注目すべきは、この基準が公共工事だけでなく、民間工事にも適用されるという点です。
これにより、業界全体での「適正な原価意識」と「健全な価格競争」への転換が強く促されることとなりました。

■ 技能者の賃金と業界の未来

技能者の賃金を引き上げるには、企業が原資としての労務費を適正に確保し、それを下請・再下請にも適正に配分し、最終的に現場の技能者に正当に支払うという「流れの透明化」が不可欠です。

その第一歩となるのが、「労務費の基準」の導入であり、この基準を実効性のある制度として活かすには、契約実務・見積作成・監督指導の各フェーズで、実務者が制度の本質を理解し、丁寧に運用していく必要があるのです。

■ 本稿の目的

本記事では、改正建設業法とともに導入された「労務費の基準」について、以下の観点から詳細に解説していきます:

  • 制度の背景と法的根拠
  • 労務費の算定方法と「基準値」の実態
  • 見積・契約段階での実務対応
  • 発注者・元請・下請それぞれの責任と留意点
  • 技能者処遇改善と建設業界の未来への展望

この記事を通じて、現場で悩みながらも誠実に取り組む経営者や実務者の方々が、制度の本質を掴み、自社の実践へと結びつけていけることを目的としています。
そして、建設業が“魅力ある職場”として再評価される社会をともに目指すための一助となれば幸いです。


第2章:法改正の全体像 ― 労務費基準の法的な位置づけ

2025年12月12日に全面施行される改正建設業法は、「第三次・担い手三法」として品確法(公共工事の品質確保の促進に関する法律)、入契適正化法(公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律)とともに一体で見直されました。

これらの法律は単なる制度改正にとどまらず、建設業界の構造的な課題――技能者の高齢化、担い手不足、長時間労働、低賃金――に対し、「処遇改善」と「働き方改革」という両輪で抜本的な解決を目指す大改革です。

■「担い手三法」とは何か?

改正された3つの法律には、それぞれ以下のような役割があります。

  • 建設業法:業界全体のルール(許可、契約、処遇等)を定める。
  • 品確法:公共工事の品質を確保するための基本理念と入札・契約に関する指針を定める。
  • 入契適正化法:公共工事の入札・契約手続を透明・公正にするためのルールを定める。

これらをセットで改正することで、民間・公共を問わず、「適正な契約 → 適正な支払い → 処遇改善 → 担い手確保」という良循環の構築が制度的に支えられる構造になっています。

特に建設業法においては、従来「努力義務」にとどまっていた処遇改善や労務費の明示が、より具体的かつ実効性のあるルールとして明文化されました。

■ 労務費基準の法的位置づけ(建設業法第34条)

今回の改正で最も注目すべき点のひとつが、建設業法第34条の新設です。
ここでは、中央建設業審議会が「建設工事を施工するために通常必要と認められる労務費」に関する基準を作成し、発注者や建設業者に対してその実施を勧告できる旨が明記されました。

この法改正により、行政が労務費の「適正水準」を公式に示し、これを下回る見積りや契約に対しては、指導や監督、さらには発注者への勧告・公表まで行える強い権限を持つこととなったのです。

さらに、以下のような制度的担保も追加されました:

  • 建設業法第20条(改正):見積書に材料費・労務費・法定福利費等の内訳を明示する努力義務
  • 入契適正化法第12条:公共工事の入札においては、内訳明示が義務化
  • 建設業法第28条:基準に著しく反した契約を行った業者に対して行政指導・監督を実施
  • 建設業法第19条の3:総価一式契約において、原価割れ契約の禁止

これらの条文の整備により、「建設業者が適正な原価(特に労務費)を確保しないまま価格競争に走る」ことを抑制し、健全な価格形成が制度的に保障される構造がつくられたのです。

■ 改正により求められる新しい契約のかたち

今回の改正は、単にルールを設けるだけではなく、契約実務そのものの変革を求めています。

① 見積書・請負契約書の記載内容の見直し

民間工事においても、今後は材料費・労務費・法定福利費・安全衛生経費・建退共掛金などの経費を明示した「材料費等記載見積書」が契約段階で求められるようになります。

これにより、下請・再下請を含むすべての建設業者が、技能者に適正な賃金を支払うための原資を、契約ベースで確保する仕組みが整備されました。

② 新設された「コミットメント条項」

改正後の標準請負契約約款には、「コミットメント条項」と呼ばれる規定が新設されました。これは、元請業者が発注者に対して「技能者に適正な労務費を支払うことを約束し、その証拠書類を求めることができる」制度です。

これは単なる契約書面の整備にとどまらず、実態として技能者に賃金が支払われているかを可視化・チェックする制度的な歯止めでもあります。
つまり、賃金原資を契約上で確保するだけでなく、実際の支払いまで「見届ける」仕組みが加わったのです。

■ 行政の役割強化と「見える化」の時代へ

建設業法では、「建設Gメン」による調査権限(第40条の4)や、許可行政庁による立入検査(第31条)も明確に規定されており、形式だけの制度運用ではなく、現場実態を踏まえた実効性のある対応が求められています。

これまで曖昧だった「適正な価格とは何か」という論点に対し、行政が“基準値”を示し、“その確保を監督”することで、業界の価格競争の在り方が大きく変わろうとしています。

これは、単なる規制強化ではありません。
健全な価格競争の中で、真に技術力のある業者が評価され、適正な利潤と処遇改善が両立する仕組みへの転換であり、まさに「建設業の再生」ともいえる変革なのです。

第3章:労務費の基準とは ― 意義と基本構造

建設業法第34条の改正によって創設された「労務費に関する基準」。
これは単なる“参考価格”でも“行政通知”でもありません。
公共工事・民間工事を問わず、すべての請負契約において技能者に適正な賃金が支払われるよう、契約段階で必要な原資(労務費)を確保することを目的とした公式基準です。

この章では、その「基準」が何を意味するのか、なぜ重要なのか、そしてどう機能するのかを解説します。


■ 労務費の基準の正式な定義とは?

「労務費に関する基準」(以下、本基準)は、2025年12月2日付で中央建設業審議会により正式決定されました。
これは、建設業法第34条第2項に基づく“法定の勧告基準”であり、以下の特徴を持ちます:

  • 対象は公共・民間を問わない
  • 発注者〜技能者を雇用する建設業者までのすべての取引段階が対象
  • 契約時点での価格交渉の基準となる
  • 行政の監督・指導の拠り所ともなる

本基準の最大のポイントは、「適正な労務費の水準を可視化し、契約上で確保する」ことにあります。
つまり、見積書上だけでなく、契約内容としても法的根拠のある基準に基づいた労務費を明記し、それが実際に支払われるかを制度として担保するという、実効性を重視した設計です。


■ 労務費=技能者の賃金原資

ここで言う「労務費」とは、建設現場で実際に作業に従事する技能者の賃金原資を意味します。
公共工事設計労務単価などに代表される「技能者1人・1日あたりの標準的な労務費」をベースとし、施工量・職種・工種などに応じて積算することが基本的な考え方です。

労務費に含まれるのは以下の通りです:

含まれるもの含まれないもの(別途明示必要)
・賃金相当分(個人負担分含む)・法定福利費(事業主負担分)
・安全衛生経費
・建退共掛金等

つまり、「労務費」は賃金だけを表す概念であり、安全衛生経費などは別途、請負代金内訳書に明示しなければなりません。


■ 労務費の基準の目的と意義

この基準が定められた理由は明確です。
技能者の賃金引き上げと、建設業界全体の処遇改善を図るためです。

背景にある課題:

  • 労務費は契約上不明瞭なことが多く、技能者への適正賃金が確保されにくい
  • 一括契約や多重下請構造の中で、労務費が“削られやすい費目”とされてきた
  • 公共工事設計労務単価は上昇していても、実際に支払われる賃金との乖離がある
  • 技能者の高齢化と若年層の定着困難

こうした問題を踏まえ、本基準は以下の効果を狙っています。

  • ✅ 見積段階から「賃金原資の明示」を徹底
  • ✅ 価格交渉で「基準値未満の契約」が抑制される
  • ✅ 実態に即した労務費が支払われるよう行政が監督
  • ✅ 技能者の処遇改善と人材確保の好循環を創出

■ 公共工事設計労務単価との関係

本基準において中心的な役割を果たすのが、「公共工事設計労務単価」です。

これは、国土交通省と農林水産省が実施する「公共事業労務費調査」に基づき、47都道府県・51職種ごとに毎年改定されているものであり、技能者1人あたりの1日(8時間)労働に必要な賃金相当額の目安とされています。

本基準では、この「公共工事設計労務単価」に基づいて、請負契約に必要な労務費(=賃金原資)を以下のような式で算出する考え方が示されています:

適正労務費 = 労務単価(円/人日) × 歩掛(人日/施工量) × 数量

これを「単位施工量あたりの労務費」として定義し、見積り・契約において確保されるべき金額の目安としています。


■ 「CCUS年収」との関係

本基準では、建設キャリアアップシステム(CCUS)との連携も意識されています。

公共工事設計労務単価は、CCUSに登録された技能者のレベル別賃金水準をもとに加重平均して算出されているため、現場での技能者の熟練度(CCUSレベル)に応じた適正な単価設定が行えるようになっています。

つまり、

  • レベルの高い技能者には高い単価での見積が妥当
  • 夜間工事・特殊工事では労務単価を割増設定可能

といった実態に即した見積りと契約が可能であることも、この基準の柔軟性・現実性の高さを示しています。


■ 労務費を「見える化」するインパクト

この「労務費の見える化」は、建設業界にとって以下のような効果を生むと考えられます。

  • ✨ 契約の透明性向上(特に元請⇄下請の力関係是正)
  • ✨ ダンピングの抑制 → 技能者処遇の底上げ
  • ✨ 優良業者の差別化 → 公共工事の品質向上
  • ✨ 若手人材の確保 → 持続可能な建設業界の実現

そして何より、「賃金は会社が勝手に決めるもの」から、「業界全体で標準的な基準がある」という健全な価格形成の文化が根付き始めることが最大の価値です。

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第4章:標準労務費の算定方法 ― 単価と歩掛りの仕組み

「労務費の基準」は、単なる“金額の目安”ではありません。
本章では、この基準が具体的にどのように算定され、どのように活用されるのかを、**「労務単価」×「歩掛り」×「施工数量」**という実務的な構成要素から読み解いていきます。

契約や見積書の作成、価格交渉の場面において、労務費の積算根拠を明確に説明できることは、元請・下請問わず、今後の企業経営において重要なスキルとなっていきます。


■ 基本式:労務費=単価×歩掛×数量

本基準においては、労務費の算定方法を次のような式で明確に示しています:

適正な労務費 = 労務単価 × 歩掛 × 施工数量

それぞれの要素について詳しく見ていきましょう。


① 労務単価(円/人日)

労務単価は、1人の技能者が1日(8時間)働くために必要な賃金原資を表します。
本基準では、**「公共工事設計労務単価」**を基準として用いることとしています。

この単価は、国土交通省が毎年実施する「公共事業労務費調査」の結果に基づき、47都道府県・51職種ごとに定められています。
例えば、東京都の型枠工の労務単価が28,000円/日、大阪府の鉄筋工が25,000円/日、というように、地域・職種によって明確に数値化されています。

📌 ポイント

  • 各都道府県の値を使用する(現場所在地基準)
  • 同一工事でも多職種が絡むため、複数単価の組み合わせが必要
  • CCUSレベルによる技能者の熟練度評価も反映可能

② 歩掛(ぶがかり)=人日/施工量

歩掛とは、ある作業量をこなすのに必要な延べ人日数を示す値です。
例えば、ある種類の作業で「1m³のコンクリートを打設するのに0.3人日かかる」といった具合です。

この歩掛の設定には、以下の点が重要です:

  • 実際の施工条件(地形・工程・人員構成等)を踏まえる
  • 受注者責任で施工可能な水準で設定する
  • 過少設定は安全・品質・処遇面でリスクあり

🛠️ 実務的アドバイス
実際の見積では、過去実績や標準施工歩掛を参考にすることが多いですが、**「無理なく施工できる現実的な水準」**での設定が求められます。
無理に歩掛を小さくして見積を合わせることは、後のトラブル(賃金未払い・工期遅延・品質劣化)につながりかねません。


③ 施工数量

施工数量は、契約の対象となる工事の物理的なボリュームです。
例えば、舗装面積500m²、鉄筋量2,000kg、型枠延長150mなど、工事の設計図書・仕様書に基づいて確定される項目です。

📌 数量確定の注意点

  • 工種ごとに「どの職種の技能者が関わるか」を整理しておくこと
  • 作業工程によって職種や歩掛が異なる場合は、工程別に分解して積算

■ 実際の見積り計算例(簡易モデル)

ここでは簡易的なモデルで、労務費の計算例をご紹介します。

条件:東京都内の型枠工事100m²を想定

  • 型枠工の労務単価:28,000円/日
  • 歩掛:0.2人日/m²
  • 施工数量:100m²

労務費 = 28,000円 × 0.2人日 × 100m² = 560,000円

この労務費560,000円が、技能者への賃金原資として確保すべき金額です。
これに加えて、法定福利費・安全衛生経費・建退共掛金等を内訳として明示すれば、適正な総工費が構成される形になります。


■ 地域別単価の適用と注意点

前章でも述べたとおり、本基準では「工事の施工場所が属する都道府県の公共工事設計労務単価」を用いることが原則です。

これは、同じ工種でも都道府県によって労務単価が大きく異なることがあるためで、適切な地域単価を選定することが、見積りの信頼性に直結します。

🗾 例えば:

  • 東京都の鳶工:29,000円
  • 青森県の鳶工:23,000円

全国一律ではなく、「現場所在地」の単価を使うのが鉄則です。


■ 「割増単価」の活用と交渉余地

本基準はあくまで「通常必要と認められる額」であるため、状況に応じて割増見積も容認されています。

割増が妥当とされる例:

  • 高度な技能を要する作業(CCUSレベル4技能者が必要な場合)
  • 夜間作業、危険作業、特殊環境下での施工
  • 繁忙期などの人手不足状況

このような場合には、公共工事設計労務単価をベースに「適正な割増率」を設定し、見積に反映することが可能です。

また、発注者側もその実態・合理性を確認の上、誠実な価格交渉に応じるべきであることが、運用方針として示されています。


■ 実務者に求められる対応力

このように、労務費の基準は単に「定められた数字」ではなく、自社の施工条件・技能者構成・地域事情に合わせて使いこなす必要がある実務的なツールです。

特に下記の点に留意することで、より信頼性のある見積・契約へとつながります:

ポイント解説
📘 地域別単価の把握都道府県・職種ごとの最新単価を確認(毎年改定)
📘 歩掛の妥当性検証工種ごとの標準歩掛を参考に、自社施工実態と照合
📘 複数職種の組合せ工種に応じた技能者を適切に配置(複合工事に注意)
📘 割増根拠の明示夜間・特殊条件時は客観的根拠を添えて交渉

第5章:見積・契約の実務上の対応と内訳明示義務

「労務費に関する基準」が法的根拠を持つようになった今、建設業者には、見積書や契約書などの実務書類において労務費を明確に内訳表示する義務が生じています。

単なるルール変更に留まらず、実務現場の対応として求められるのは、「誰に」「いくらの労務費を」「どの根拠で」提示し、「どのような契約形態で交わすか」を可視化・証明することです。

この章では、許認可・労務・安全衛生のプロが企業の伴走支援をする際にも役立つ視点で、契約実務に落とし込むためのポイントを整理します。


■ 内訳明示義務の法的位置づけ

まず押さえておきたいのが、今回の法改正によって強化された「見積書等における内訳明示義務」です。

建設業法 第20条(改正)

請負契約にあたって、見積書等において、材料費・労務費・法定福利費・安全衛生経費・建退共掛金等の内訳を明示する努力義務が課される。

さらに、公共工事においては、以下のとおり義務規定に格上げされています。

公共工事入札契約適正化法 第12条

国や地方自治体等の公共発注者は、入札・契約に際し、内訳明示を求めることが義務付けられる。

このように、見積書上で「○○円の一式契約」として曖昧に処理することは許されず、構成費目ごとに金額を明確に記載することが、制度上求められています。


■ 標準見積書様式の活用(ポータルサイト参照)

国土交通省の「労務費に関する基準ポータルサイト」では、具体的な実務対応のひとつとして、**「材料費等記載見積書(標準様式)」**が示されています。

この様式では、以下のような構成で費目を記載します:

費目記載内容(例)
材料費コンクリート、鉄筋等の実費
労務費職種別 × 人日 × 単価(第4章参照)
法定福利費社会保険・労災保険の事業主負担分
建退共掛金技能者の退職金掛金
安全衛生経費安全施設、保護具、研修など

🛠️ 実務ポイント:

  • 法定福利費と労務費は必ず区分して記載
  • 見積に添付する参考資料として、労務費算定根拠の計算書を併せて用意するとベター

■ コミットメント制度(誓約型契約)の導入

さらに今回の制度では、「労務費の支払い実績」まで踏み込んだコミットメント制度が新設されました。

これは、元請業者や発注者が「適正な労務費が技能者に確実に支払われる」よう、誓約書の取得や証拠書類の確認を求める制度です。

具体的な実務内容:

  • 元請→下請に「労務費の確保を誓約させる」契約文書を追加
  • 下請→元請に「支払い明細・賃金台帳」の提出を促す
  • 発注者→元請に「技能者の処遇確認」の要請を行うケースも

これにより、単なる見積書上の記載にとどまらず、実際に技能者に支払われた賃金をチェック可能な仕組みが制度化されたといえます。


■ 建設Gメンと通報制度による実効性担保

これらの制度を“絵に描いた餅”にしないために、行政による監視・指導機能も強化されています。

建設業法 第40条の4

  • 元請・下請・現場を対象に、賃金の支払い実態を確認する権限
  • 必要に応じて、帳簿・支払い明細・契約書等の提出を求める
  • 不適正な契約・支払が確認された場合は、勧告・公表・行政指導の対象

通報制度

  • 労務費の未払い・不足支給に関する通報を技能者本人から受け付け
  • 匿名での相談も可能 → 監督官庁に通報され、調査対象になることも

これらにより、元請・下請を問わず、労務費の不当削減や未払いがあれば発覚・是正されるリスクが高まっています。


■ 発注者・元請・下請の三者に求められる役割

制度が目指すのは「誰が悪いか」の追及ではなく、技能者の処遇改善と工事品質の両立です。
そのためには、各立場での責任と対応が極めて重要です。

立場責任・対応内容
発注者見積徴収時に労務費内訳を明示させる
不当な値切りや一括発注の抑制
元請下請との契約時に労務費・福利費を正確に明示
コミットメント条項の活用
下請根拠のある労務費で見積りを提示
技能者への賃金支払実績を把握・証明

■ 社労士・行政書士としての支援視点

中小建設業者がこの制度を“リスク”ではなく“チャンス”として活用できるよう導くため、単なる書類代行にとどまらず、下記のサポートをいたします。

支援ポイントの一例:

  • 内訳明示型見積書の整備と説明資料の提供
  • 労務費基準に基づいた契約書・誓約書のフォーマット構築
  • 賃金台帳・支払証明書などエビデンスの保管指導
  • 労務費交渉のための交渉文書(説明文例)の整備支援

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第6章:発注者・元請・下請に求められる責任と対応

「労務費の基準」が制度化されたことで、建設業の契約構造は大きな転換点を迎えました。
従来の“慣習”や“商慣行”に頼った価格交渉はもはや通用せず、すべての関係者が責任を明確化し、適正な価格形成と処遇改善に主体的に関与する姿勢が求められています。

この章では、発注者・元請・下請の3者それぞれに課される責任と、今後必要な対応について具体的に整理します。


■ 発注者に求められる対応

発注者は、これまで価格交渉の“起点”として強い影響力を持ってきました。
そのため、労務費の基準を守るには、発注者自身の意識改革と実務対応の見直しが不可欠です。

① 内訳明示の求めと確認

  • 見積徴収の際に、「材料費・労務費・法定福利費・安全経費」等の構成費目の明示を求める
  • 単に総額で判断せず、「技能者への支払いが適正に行えるか」を重視する姿勢が必要。

② 不当な値切り・一括発注の是正

  • 総価一式での発注や、「他社より高いから値引け」という安易な価格比較の排除
  • 適正な積算根拠を尊重し、必要に応じて相見積の評価基準を見直す。

③ 元請に対する処遇確認

  • 元請企業に対し、「技能者に対する適正な賃金が支払われているか」を確認。
  • 必要に応じて、労務費の支払い実績を元請から報告させることが推奨されている(※コミットメント制度)。

📌 発注者に対しても、国交省が「発注者・受注者間における建設業法令遵守ガイドライン」を公表しており、実務上の対応例が詳しく記載されている。


■ 元請に求められる対応

元請は、発注者と下請の両方に対して契約責任を負い、労務費を確保・配分する“ハブ”のような存在です。
したがって、適正な契約管理と現場把握の徹底が求められます。

① 材料費等記載見積書を必須化

  • 下請から見積を受ける際には、内訳明示された標準様式の見積書を提出させる。
  • 総額しか書かれていない場合は、交渉時に詳細を確認し、誤認や見落としを防止。

② 契約書の明確化と誓約取得

  • 下請との契約書に、「労務費を技能者に適切に支払うことを誓約させる条項(コミットメント条項)」を明記。
  • 契約時に、賃金台帳や給与明細の提示義務を盛り込むことも実務的に有効。

③ 多重下請構造への配慮

  • 元請から再下請へと進むにつれて、労務費が目減りする構造が問題視されている。
  • 下請に対しても「労務費の根拠提示」と「賃金支払状況の把握」を求めることで、全体の適正化を図る責任がある。

🛠️ 実務サポート例:
当事務所が、下請契約書のひな形作成や誓約条項のリーガルチェックを行うことで、リスクを回避しながら制度に適合できる体制を整えることも可能です。


■ 下請に求められる対応

下請企業には、「実際に技能者を雇用し、賃金を支払う当事者」としての責任が最も直接的に問われます。
労務費の算定・説明能力が、受注や信用力に直結する時代に突入しました。

① 根拠ある見積提示

  • 元請に対して「公共工事設計労務単価」や「自社の過去実績」に基づいた、合理的な労務費の見積りを提示する。
  • 一式見積の中に人件費が埋没しないよう、明細レベルでの説明ができるようにしておく。

② 証拠書類の整備と提示

  • 賃金台帳、支払明細書、銀行振込控などの支払い実績を証明できる資料を保管・整備しておく。
  • 元請や発注者からの照会に即応できる体制が求められる。

③ 教育・社内意識の向上

  • 社内で「労務費の基準制度」に関する研修・勉強会を実施し、担当者が自信を持って説明できるスキルを身につける。
  • 労務担当・経理・現場の連携が不可欠。

■ 三者連携で実現する「処遇改善と品質確保」の両立

労務費の基準制度は、単なる契約書類の様式変更ではなく、建設業界全体が協力して“よりよい働き方・適正な評価”を実現していくための共通ルールです。

役割重要アクション
発注者安値誘導の排除、内訳明示要求、元請との対話
元請下請との健全な契約管理、支払履歴の把握、誓約取得
下請根拠ある見積提示、労務費の可視化、技能者への支払徹底

このように各立場が“自分の責任”を果たすことで、制度は機能し、結果として技能者の賃金引上げ・定着促進・品質向上という好循環が生まれます。

第7章:労務費基準がもたらす建設業界の未来と専門家の使命

2025年12月に全面施行された「労務費に関する基準」は、建設業界にとって単なる制度変更ではありません。
それは、業界構造・契約慣行・働き方・技能者処遇といった“根幹”を見直し、持続可能な業界へと導くための【社会的転換点】です。

そして、この変革を現場に根付かせるには、法律、実務、現場、すべてを理解している伴走型の専門家の存在が不可欠です。


■ 労務費基準がもたらす「3つのパラダイムシフト」

本制度は、建設業界における以下の3つの“当たり前”を、大きく変えていきます。

① 見積の常識が変わる

従来:

  • 「総額で安ければいい」
  • 「一式契約で曖昧でも構わない」

これから:

  • 「根拠ある積算と内訳明示が標準」
  • 「労務費・福利費・安全費が個別に確保されて当然」

② 契約の責任構造が変わる

従来:

  • 元請・下請間の“力関係”で価格が決定
  • 賃金まで気にしない「丸投げ」構造

これから:

  • 契約内容・支払いの「見える化」で責任が可視化
  • 元請にも「技能者の処遇改善」の説明責任

③ 技能者の位置づけが変わる

従来:

  • 安い労働力として“調整弁”扱い
  • 若手が定着せず、高齢化が加速

これから:

  • 技能・キャリアを持つ専門職として正当に評価
  • 賃金上昇と安定雇用 → 若手人材の流入促進

このように、「見積→契約→支払い→処遇」という一連の流れが透明・公平・責任明確となり、業界全体の底上げにつながっていきます。


■ 伴走支援型専門家の新たな役割

この制度が真に機能するか否かは、現場や中小企業が「制度を正しく理解し、実行に移せるか」にかかっています。
ここで私のような専門家に期待されるのは、「代行業務」ではなく、現場に寄り添い、“変革を実現するパートナー”としての支援です。

🔹 行政書士としての役割

  • 建設業許可・経審・入札参加登録のみならず、「材料費等記載見積書」の整備・説明
  • 「適正単価の根拠となる労務費基準」を活用した許認可支援

🔹 社会保険労務士としての役割

  • 賃金台帳・支払い明細等の整備支援
  • コミットメント条項や就業規則との整合性指導
  • 「建設キャリアアップシステム(CCUS)」と連動した処遇可視化サポート

🔹 コンサルタントとしての役割

  • 価格交渉時の説明資料・根拠提示方法の助言
  • 自社原価把握・利益確保型経営への転換支援
  • 経営者の意識改革と、現場担当者との橋渡し

当事務所が兼ね備える法律・労務・現場・制度・教育の知見をフル活用して、サポートいたします。


■ 「見積書は未来の処遇をつくる契約書」

本制度の根幹にあるのは、“労務費=技能者の未来”であるという考え方です。

つまり、見積書や契約書は、単なる書類ではなく、「この金額で、誰に、どれだけの責任と賃金を提供するか」を約束する未来契約なのです。

この考え方が業界に浸透すれば、以下のような好循環が現実となります:

  1. 適正な見積 → 適正な契約
  2. 適正な契約 → 安心して働ける現場
  3. 安心した現場 → 若者が入職・定着
  4. 技能者の処遇向上 → 品質・安全性の向上
  5. 品質向上 → 社会的評価と利益の拡大

■ 未来志向で制度を活かすために

建設業界は今、変わるチャンスを手にしています。

それは“制度に対応する”ことではなく、“制度を活かして未来を創る”こと。
そして、その中心には、制度の本質を伝え、経営者と現場をつなぎ、伴走できる専門家が必要です。


【終章に寄せて】

制度は人を変えない。人が制度を動かす。

労務費の基準は、“紙の制度”ではなく、“現場の意志”で活かされる制度です。

共に変革の旗を掲げ、これからの建設業界の未来を築いていきましょう。

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当事務所は、1級土木施工管理技士所有の行政書士による行政書士業界では珍しい「建設業専門」の行政書士事務所です。また、社会保険を熟知している建設業界に強い社会保険労務士事務所でもあります。

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⇒当事務所は、上記のとおり現場のことも社会保険のことも熟知しているため、思わぬトラブルを事前に回避することができますので、ご安心ください。

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